朝、キッチンに立つだけで汗ばむような真夏の日。
食欲が湧かないまま、なんとなくパンとコーヒーで済ませてしまう朝が続いていました。
それはそれで慣れていたけれど、ある日ふと、自分の身体が少し“乾いている”ような感覚に気づきました。
そんなとき、冷蔵庫に残っていた梅干しとしそを使って、おにぎりをひとつ。
久しぶりに白いごはんに触れて、手のひらの温度がじんわり伝わるのを感じながらにぎる時間が、なぜかとても心地よかったんです。
ひと口かじった瞬間、梅の酸味としその香りがふわっと広がって——
朝のぼんやりした世界に、やっと“目が覚める感じ”がしました。
夏の朝に、ごはんを食べるということ
暑さが続くと身体がだるくて、朝のごはんすら重たく感じることがあります。
でも本当は、そういうときこそ、食べることで整えることが必要だったりする。
とくに和食は、夏に合っていると感じます。
冷たいお茶、酸味や香味の効いた食材、塩分やミネラルを自然に補ってくれる組み合わせ。
昔から続く夏バテ対策が、今の私にもちゃんと届いてくれるのが不思議です。
梅干しには疲労回復にうれしいクエン酸、しそには食欲を刺激してくれる香り。
どちらも昔ながらの知恵だけれど、40代になってそのありがたみがよくわかるようになりました。
炊きたてのごはんでなくても大丈夫。
前夜の残りごはんを軽く温めて、さっと刻んだ梅としそ、ごまを混ぜるだけ。
少しだけ塩を足すと、朝の身体がきゅっと目覚めていく感じがします。
「握る」ことが、気持ちを落ち着けてくれる
料理というほどの手間ではないけれど、おにぎりを“握る”という動作には、なにか特別な意味がある気がします。
スプーンですくうのでも、フォークでつつくのでもない。
手のひらを使って形をつくることは、自分と向き合うための小さな儀式のようでもあります。
私は朝のキッチンで、その日使いたい器を選んで、おにぎりをそっと並べる時間が好きです。
シンプルな白磁に盛りつけたり、小さな竹の籠に入れたり。
同じ梅しそおにぎりでも、器や添える飲み物によって、印象が変わるのが面白い。
冷たい麦茶もいいけれど、私はときどき、味噌を薄めに溶いた夏の味噌汁を添えることもあります。
すこしだけ削ったしょうがを落とすと、香りが立って、気持ちがしゃんとします。
“ちょっとだけ整える”という選択
年齢を重ねてきて思うのは「ちゃんと食べる」ということが、思っている以上に自分を守ってくれるということ。
でも、ちゃんとやろうとしすぎると、逆に負担になって続かない。
だから私は、「ちゃんと」のハードルを下げて「ちょっとだけ整える」という意識で暮らしています。
おにぎりひとつでも、食卓の風景が少し変わるだけで、自分の気持ちもゆっくり整っていくのを感じます。
毎朝でなくていい。
週末でも、寝坊した日の昼ごはんでも、「今日はおにぎりをにぎろう」と思えるだけで、暮らしにリズムが戻る気がするんです。