夜の暑さが引かず、身体がなんとなくだるい日。
冷蔵庫の前に立って「食べたいものがないな」と思いながらも、何か食べたほうがいい気がしている。
そんな夜に、私はよく“冷やし茶漬け”をつくります。
ごはんに、薬味をたっぷりのせて、冷たいお茶を静かに注ぐだけ。
それだけなのに、するすると喉を通って、お腹も心も、すっと軽くなっていく。
大袈裟ですが、心と体を“整える”ための儀式みたいな役割もあるのかもしれません。
何も食べたくない夜の、やさしい選択肢
夏の夜は、メニューを決めるのが難しくなります。
冷たい麺類をお昼に食べた日は、夜にまた麺類という気分でもない。
かといって、しっかり炒め物や煮物を作る気力は湧かない。
そんな時間に、お茶漬けという選択肢はありがたい存在です。
あたたかいお茶漬けもいいけれど、夏はやっぱり冷たい方がしっくりくる。
氷水で冷やした緑茶や、冷ました白だしで、さらりと仕上げます。
お米は前の日の残りでかまいません。
むしろ、少しだけ乾いたくらいのごはんの方が、冷たい出汁がよくしみておいしい気がします。
茗荷、大葉、生姜。薬味が主役になる夜
薬味を刻む時間が好きです。
茗荷のやわらかい赤色。
大葉のしっとりとした香り。
すりおろした生姜の清涼感。
ひとつひとつに“夏の涼”が詰まっているようで、切っているうちに、少しずつ気持ちまで整ってきます。
刻んだみょうがと大葉のほかに、炒りごまや、ほんの少しの柚子胡椒を添えてもおいしい。
ときどき、焼いた鮭や、梅干しをひとつ加えることもあります。
でも、なくても大丈夫。主役は薬味ですから。
満たしすぎず、空腹すぎず。夜にちょうどいい
お腹を満たしたいわけじゃないけれど、空っぽのまま眠るのもなんだか落ち着かない。
そんな夜に、冷やし茶漬けはちょうどいい距離感で寄り添ってくれます。
一膳食べると、胃が落ち着いて「ああ、ちゃんと食べたな」と思えるのです。
しっかり食べなければ、というプレッシャーからも、何も食べなくていい、という投げやりさからも離れて、“自分の心と身体を見てあげる”ような感覚で、お茶漬けをすくう夜。
夏の夜も、悪くないなと思えたりします。
暮らしに、静かな余白を
ごちそうじゃない。手間もかけていない。
でも、今日の自分にとって必要なものを、ちゃんと食べたという実感。
それだけで、その日の終わり方が変わります。
バタバタした一日の自分に、冷たいお茶漬けはいかがですか。